- Hare, R. M. 1972. "Nothing Matters", in his Applications of Moral Philosophy, Macmillan.
Ⅰ
かつてヘアの家に滞在したスイスの友人についての回想から始まる。元気で、精力的、誰からも好かれそうな彼は、ある朝、煙草を吸いたがる。その後無口で引きこもりがちになった彼を心配したヘアは、彼がカミュの『異邦人』を読んだことを知る。そのせいで"Nothing matters"と確信しているようなのだ。
ヘアは道徳哲学者として、"matters”の意味・機能の分析を通じて彼との議論を始めようとする。あたかも、「正しいとは一体何なのか、間違いとは一体何なのか」を議論するのに先だって、「何が正しいか・何が間違いか」を問うことはできないと考えたソクラテスのように。
Ⅱ誰のunconcernか
"matters"は「誰にとってか」を伴う語であることを確認した後、"Nothing mattters"は誰の無関心を表しているのかが問われ、3つの候補が挙げられる。
①小説の登場人物、②著者、③読者(スイスの友人)
しかし、①②③全て退けられる。実際に「何も重要ではない」ということはありえない。人は誰でも何かしらの関心をもっている。
スイスの友人にとって重要なのは、重要なことを見つけることではなく、何が最も重要であるか、何を本当に望んだのかを決めることである。
Ⅲ
価値観を全体として放棄してしまうことは不可能である。人間は価値づける生き物である。
Ⅳ 2つの関連するトピック
①価値の客観性について
②主観主義と相対主義の区別について
①
・主観主義者と客観主義者は同じ事を別の言葉で言っているにすぎない。その区別は単に言葉上のものである。
Ⅴ
A、Bという2人の意見が対立しているとする。その対立、また、いずれかが真であるということは、客観主義と主観主義の区別の導入には役立たない。
Ⅵ
②
「ある行為は誤りだ」と述べることは誤りだ=「ある行為は誤りだ」という主張の否定
結局のところ、「ある行為は誤りであるか、誤りでないかのいずれかだ」ということに等しい。
道徳哲学からobjectiveとsubjectiveという術語は排除するべきだ
Ⅶ
moralとethicalは区別されるべき。
moral:何が正しく不正か、何が善く悪いかについての見解
ethical:正しい、不正、善い、悪いなどの概念の意味や用法についての見解
相対主義はmoral、主観主義はethicalであって、両者は異なる。